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神戸地方裁判所 昭和27年(行)8号 判決

原告 中尾工業株式会社

被告 曾左村農業委員会・国

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告曾左村農業委員会(以下単に被告農業委員会と云う)が昭和二七年三月四日別紙目録記載の土地に対して為した買収計画及び別紙売渡人名表記載の売渡人に対してなした右土地の売渡計画は何れも之を取消す。若し之の請求が認められない場合は被告国は原告に対し金四二九、九三六円及び之に対する昭和二七年四月一日以降完済に至る迄年五分の割合の金員を支払へ。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、

第一、被告農業委員会は、昭和二七年三月四日原告所有の別紙目録記載の土地及びその周辺の同所一〇二五番乃至一〇二八番、一〇三六番、一〇六六番の各一、一〇三七番の二(以下単に一部買収取消地と称す)の土地に対し、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三条第五項により原告会社の営む耕作業務が適正でないとして右目録記載の対価を以て買収計画を立てかつ右買収地の売渡計画を立てた。原告は之に対し異議を申立て被告農業委員会により棄却され、更に適法期間内に訴願の申立をした処、兵庫県農業委員会は同年三月三一日訴願棄却の裁決をし、その裁決書は同年四月二三日原告に到達したが、その後同年五月七日被告農業委員会は前記一部買収取消地に付き買収を取消した結果、その売渡計画も別紙目録記載の通り変更された。

第二、然しながら右買収計画は、本件買収地が工場敷地であり農地ではないから違法なものであり、従つて之に基いてなされた売渡計画も違法である。

(一)  本件土地は、原告(昭和一八年設立された会社で戦時中は海軍の下請工場として造船主要部品等の製造を行つていたが、戦争熾烈となつた頃、工場を移転する為、工場敷地とする目的で、買受けたもので、買受後、山林、原野、畑畔等を整地し、工場三棟及守衛室を建設し、道路を築造して戦時工場としての設備を整えた。間もなく終戦となり、戦後事業内容を転換して事業を継続したが、その後経済界の不況の為止むなく右事業を中止したものの尚工場企図を放棄せず、前記建物を取毀し、敷地として使用する企業方針を調査して来たもので、最近本件土地を使用して養鶏事業を経営すべく準備中であつた。

(二)  本件土地は終戦後の食糧不足の折附近の住民が不法占拠して野菜の栽培をしていたことはあるが、昭和二六年以来之を禁じて居り、原告に於ては之を耕作したこともなく、又他へ貸与したこともない。

(三)  被告農業委員会は、取毀された建物跡地を含む前記一部買収取消地に付て前記の如く買収を取消したが、工場敷地は、工場経営上、敷地全体を有機的関係的に即ち建物、空地、道路等を相関連せしめてその機構を定むべきものであるから、その買収に当つても、敷地全体として観察して之を決すべきである。従つて、建物跡地の買収を取消した理由は、同時に敷地全体に付て買収を取消す理由となる。

第三、仮に右主張が理由なく買収計画が違法でないとしても、兵庫県知事は昭和二七年四月二一日右買収計画に基き買収令書を発行し同月二四日原告にこれを交付して右農地の買収を完了したが、右計画で定められた買収対価五、〇四三円八四銭は不当である。本件土地は昭和二〇年二月頃前所有者に金五〇、四六〇円を支払つて取得し、尚多額の整地費を支払つて工場敷地としたもので、自創法第六条第三項但書に該当する。而して本件土地(宅地)の価格は一坪金一四〇円が相当であるから、被告国に対しその増額を請求すると共に、右金額で計算した本件買収地一町一反二〇歩(三三二〇歩)の相当価格四六四、八〇〇円と前記買収対価との差額の内金四二九、九三六円及び之に対する買収計画樹立の日の後である昭和二七年四月一日以降完済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると述べた(立証省略)。

被告農業委員会指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実の第一の点、第二の中(一)の原告が本件土地を工場敷地とする目的で買受けた点、(三)の一部買収取消地に付き、被告農業委員会が買収を取消した点は何れも之を認めるが、本件土地が農地でなく工場敷地であるとの点は争う。本件土地は元来畑であつたもので、原告が買取つた後建設した建物その他の工作物は買収地以外の土地(買収地の北部及び南東部)に在り(尤も特記する程の建物ではなかつた)その部分に付ては除草整地等の軽易な労作を加へたとするも、買収地は原告が買取つた儘で多少畔が崩れている処があるとしても、買取以来使用目的を変更したことなく、純然たる農地である。原告会社は終戦後経済界の激変に遭い、原告は昭和二五年一〇月三〇日を最後に逐次職員を含む全従業員を整理し、他の土地物件も国税庁の公売金融業者への名義変更、その他の任意処分を了し、財産としては本件土地を残すのみである。従つて原告は本件買収地上での工業企図を全く放棄しているのである。又原告は養鶏事業を経営せんと準備中であつたと主張するが、原告は本件土地も養鶏事業家に売却せんと企図していたが、買収計画に編入されていることを知り、他の非農地を同人に売却したほどであつて、その養鶏事業は原告とは無関係で、原告には左様な計画は無かつた。又買収前の本件土地の利用状態は、戦時中は専ら従業員の自給菜園として使用し、その後原告は従業員の福井某を農場主任として昭和二三年頃迄、その後は小林某が交替して昭和二五年頃迄主として同人等の個人的労力によつて農場として使用されていたが、その後昭和二六年頃からは全く放置されたままで、本件買収当時には一面の草地となつていたものであると述べた(立証省略)。

被告国指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

被告農業委員会が原告主張の日別紙目録記載の土地につき、原告主張の対価を以つて買収計画を樹て、原告主張の経過を経て兵庫県知事が原告主張の日右計画に基き買収令書を交付して買収を完了したことはこれを認めるが本件土地が工場敷地であるとの点は認めない。本件土地は従前より農地であつて、然も何等改良行為も行われていないから自創法第六条第三項但書に当らないと述べた(立証省略)。

三、理  由

被告農業委員会が原告主張の日、その所有の別紙目録記載の土地並に一部買収取消地に対し、その主張の如き買収計画並に売渡計画を立てたこと、原告が右買収計画に対し、異議申立をして棄却せられ、適法期間内に訴願の申立をし、兵庫県農業委員会が原告主張の日その訴願を棄却する旨の裁決をし、その裁決書が原告主張の日原告に到達したことは当事者間に争はない。原告は右被買収地は農地でないと主張するが、証人中尾信雄、同谷口重一及び山下常次の各証言ならびに第一、二回各検証の結果を綜合すると、本件買収地は姫路市を遠く奥地に入つた農業村落に存在し、周辺一帯は農地や藪で原告買入前は畑地であつた処原告は昭和二〇年春頃工場敷地とする目的で之を買入れ(原告の買入れの目的に付ては当事者間に争はない)人夫を雇つて、夢前川北側附近の一部(本件買収地東側を北西より南東に通ずる道路の西側の一部で現買収地外)を整地し、その地上に工場事務所、守衛室、倉庫等を建設したが、未だこれに機械等を搬入するにいたらない以前に終戦となり戦後は右建物を利用して一時製材業を開始したもののこれも経済界の不況の為廃業し前記の建物は間もなく取毀収去されたような次第で右建物の敷地に供せられた以外の土地である本件買収地は依然として元の畑地のまゝに放任され一〇二五番の二、及一〇六七番の畑中には柿梅の古木等が相当数残存散立する有様であつて食糧事情の悪かつた昭和二二年二三年頃より原告工場の従業員や附近の住民が休閑地利用として野菜類を栽培し、原告に於て之を黙認している状態であつたが、昭和二六年頃原告は右栽培を禁止し、以後は原告に於て格別土地を使用することもなく放置していた為本件買収当時は一面の草地であつたことが認められる。処で自創法に所謂農地即ち「耕作の目的に供せられる土地」である為には先づその現況に即し、土地が現に耕作に供せられているか若は現に耕作に供せられていなくとも、例えば休耕地の如く少くとも耕作に供せられ得る土地たることを要すると解するところ本件買収地は前認定の如く本来畑地であり工場敷地として買取られたとしても整地も行われず尚数年間畑として利用せられ、その後買収にいたるまで一年余休耕のまま放置せられて雑草の生えるに任せたとは云え未だ耕作に供せられ得る土地であつたであろうことは農地の性質上自明である。原告は本件買収地に於ける事業は一時中止したが尚この地に於ける工業企図を放棄せず之が敷地としての企業方針を調査していたもので最近では養鶏事業を経営すべく準備中であつたので尚工場敷地としての性格は失われていないと主張するが、前記法律に所謂農地であるか否かを判断するに当り前記の客観的要件の外に土地所有者の主観的意思乃至意図を全然無視することの許されないのは云う迄もないがかゝる所有者の意図のみによつてはその農地たる性質を失うものでないことも明らかであるから、所有者に於ける斯様な意図は只之を有する丈では足りないのであつて、その意図が近い将来に於て実現されることが客観的にも明白に認め得る状態でなければならないものと考えられる処本件買収地は戦時中のいわゆる疎開工場の敷地としてならばいざ知らず、現在においては前認定の通り交通不便な奥地の農村落にあつて工業用地として不適当であるのみならず、そのいうところの養鶏事業の如きもかゝる意図が近く実現されるまでに具体化していることはこれを認むべき何等の証拠がない。結局原告が本件買収地を近く農地以外の目的に使用することは客観的に具体化されていないのであるから右の主張は之を採用することは出来ない。次に一部買収取消地につき原告主張の日に、被告農業委員会に於て、従前の買収計画より之を除外して買収取消の決議をしたことは被告農業委員会との間に争なき処であり、原告は、この点に付て工場敷地は、之を全体として有機的に観察すべきであるから、右一部取消の理由は同時に敷地全体の買収取消の理由となると主張するのであるが、当初の本件買収農地は全体として工場敷地に供する目的で原告が取得しその一少部分(買収取消地)に工場や事務所を建てたことは前認定の通りであるが、その買取意図は終戦のため実現せず、右一部買収取消地を除いた本件買収地は依然農地のまゝ放置されていた実情も前記の通りであるから右一部買収取消地上で一時製材の小企業が行われた一事を以つて本件農地が一体として工場敷地と化したとは到底認められないから、この主張も亦採用の限りでない。以上の理由によつて本件買収土地は前記法律に所謂農地と認めるの外なくしかも原告会社は買収当時この農地を耕作していなかつたこと前認定の通りであるから正に自創法第三条第五項第六号に該当し、被告農業委員会の本件買収計画は適法のものであるから右買収計画の違法を主張し、右買収並に之に基く売渡計画の取消を求める原告の請求は共にその理由無きものである。

次に原告の被告国に対する請求に付て判断する。

原告は本件買収土地の買入価格は昭和二〇年二月頃金五〇、四六〇円であり、その上尚多額の整地費を投じて工場敷地としたもので自創法六条三項但書の特別事情に該当すると主張するが、原告が整地に費用を投じたのは一部買収取消地に対してであり、本件買収農地に対してではないこと前認定の通りであるし、右法条に特別の事情とはその農地自体に客観的に存在する事情をいうのであつて、被買収者がその農地を取得するにつき支出した対価の多寡の如きは右特別の事情には当らないものと解すべく、検証の結果によつて見ても本件農地につき別異の対価を定むべき特別な事情を認められないから、この点に関する原告の主張も又採用するを得ない。

以上の理由によつて原告の本訴請求は何れも理由が無いから之を棄却することとし、訴訟費用の負担に付て民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 大野千里 林義一)

(目録省略)

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